2014/10/16
ターミナルケアの利用者様の移送〜介護タクシーの現場から〜
僕の介護タクシーのお客様には色々な方がおられます。
今日は、ターミナルケアの利用者様を移送したときに感じた事を書きたいと思います。
ターミナルケアとは、末期がんなど治癒が困難な患者さんや家族を対象とする身体的・精神的な終末期ケアを言います。
つまり、一言でいえば、「死と直面している患者様」ということです。
数年前、ある施設から依頼の連絡が入りました。
内容を聞いてみると、ターミナルの患者様をご自分の家に一時帰宅するという移送でした。
自分の家に帰るということは、健康な人からすれば当たり前のことです。
しかし、ターミナルの人は自分の家に帰宅することさえ困難です。
ひょっとすると、急遽引き返してこなくてはいけない可能性もありました。
施設にお迎えに伺ったときに、看護師や医師から説明を受け、万が一のときにどうするべきか細かく聞きました。
利用者様をストレッチャーに乗せて、いざ自宅へ向かい、
出来るだけ振動がないようにゆっくり走るなど気を使いながらの運転です。
わずか10分程度の走行ですが、急変しないように大変気を使いました。
しばらくすると、利用者様の住んでいた家に到着しました。
出迎えてくれたのは、耳にピアスで茶髪、今風の若いおにいちゃんです。
きっと孫さんだと思うのですが、利用者様を降ろすと同時に
「おじいちゃん、よー帰って来てくれたな。ありがとうな。」と声をかけていました。
そして、玄関から部屋に入ると、近所の人や親戚の方がおられ、すぐにその利用者様を囲み色々な言葉を言われていました。
「よー帰って来た!!」「ほんまによー帰って来てくれたわ!」
さきほどの孫であろうお兄ちゃんが利用者様に向かって肩をふるわせていました。
顔を見ると、泣いておられました。
「おじいちゃんわかるか?○○だぞ!しんどいのに帰って来てくれてありがとうな。」
と、先ほどと同じ言葉をかけながら顔を触ったりしていました。
利用者様は何も言葉を発することができません。
しかし、孫さんの言葉というのはしっかりとわかっていると思います。
ご家族から少し事情を聞くと、利用者様の意識がはっきりしていた頃に
「死ぬ前に必ず一度は自宅に帰らせてほしい」と言われていたようです。
送り出す施設側、迎えるご家族、中継をする僕の介護タクシー、そして、一時帰宅できる体力を保った利用者様。
どれが欠けてもこの移送は実現しませんでした。
家に人がたくさん集まり、皆から「帰ってきてくれてありがとう」の言葉を言われる利用者様は、
よほど人から好かれていたのだろうと推測できます。
みんなの顔と自分の家に帰れて安心したのか、翌日に利用者様は亡くなりました。
利用者様が亡くなった情報は家の近くを通ったときに、葬儀の案内が出ていたからわかったのですが普段はあまり行かないところなので偶然で驚きました。
僕は、利用していただいた感謝の気持ちとお疲れさまでしたという気持ちを込めて、家の方角に向かって車中からではありますが、手を合わせました。
時には不可能に近い願いを実現する仕事。
それが僕の介護タクシーの役目でもあります。
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